空き家の放置が続くと、最終手段として「行政代執行」が行われることがあります。これは、所有者に代わって自治体が解体や修繕を行う強い制度です。本記事では、行政代執行の仕組みや法的根拠、実施までの流れ、発生する費用と所有者の責任、代執行を避けるために取るべき対策までを分かりやすく解説します。
行政代執行とは何か 基本を理解する
行政代執行とは、本来は所有者などの義務者が自分で行わなければならない危険除去や修繕などの作業を、一定の手続きに従って自治体が代わりに行うことをいいます。命令に従わない場合でも、放置すると住民の生命や身体、財産、生活環境に大きな被害が出るおそれがあるときに使われる、強い権限にもとづく制度です。空き家問題では、倒壊や火災の危険が高い建物などに対して、市区町村が最後の手段として行政代執行を行うことがあります。
行政代執行の法的根拠と目的
行政代執行の基本的な仕組みは「行政代執行法」という法律で定められています。また、空き家については「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、特定空き家に対する勧告や命令、代執行の流れが示されています。これらの法律にもとづき、自治体は命令に違反した場合でも、危険な状態をそのままにせず、自ら工事などを行うことができます。
行政代執行の目的は、単に所有者を罰することではなく、周囲の住民の安全を守り、地域の生活環境や景観を保つことにあります。たとえば、今にも崩れそうな空き家や、ごみが大量に放置されている空き家を放置すると、通行人のけが、火災、害虫の発生、不審者の侵入など、さまざまな被害につながります。こうした被害を未然に防ぎ、公共の福祉を守るための仕組みが行政代執行です。
行政代執行が行われる状況
行政代執行がいきなり行われることはなく、基本的には「義務者に自分で是正するよう命じたのに従わない場合」に限って実施されます。まず自治体が所有者に対し、指導や助言、勧告、命令といった段階的な措置を行い、それでも必要な修繕や撤去がなされないときに、代わって作業を行うという流れになります。
空き家の場合でいえば、屋根や外壁が落下しそうな状態、建物が大きく傾いている状態、雑草やごみが放置され近隣に著しい迷惑をかけている状態などが典型的な場面です。これらは「特定空き家」と判断されることが多く、周辺住民からの苦情や相談を受けて、市区町村が現地調査を行い、危険性や周辺への影響を確認します。そのうえで、命令に従わない場合に限り、行政代執行によって解体や修繕が行われることになります。
このように行政代執行は、所有者の権利を制限しうる強い手段である一方で、無秩序な空き家放置を防ぎ、地域の安全と安心を守るために用いられる、例外的かつ重要な制度だといえます。
空き家に行政代執行が適用されるケース
空き家に対する行政代執行は、所有者が自ら適切な管理を行わず、周囲に危険や迷惑を及ぼしていると市区町村が判断した場合に検討されます。空き家対策特別措置法にもとづき、一定の要件を満たす空き家は「特定空き家等」に指定され、最終的に行政代執行の対象となる可能性があります。
特定空き家とはどのような空き家か
特定空き家とは、空き家対策特別措置法に定められた基準に照らして、周辺の生活環境に深刻な悪影響を与えていると判断された空き家のことです。たとえば、建物が老朽化し倒壊の危険がある場合、外壁や屋根材が落下するおそれがある場合、雑草やごみの放置で衛生状態が悪化している場合などが代表的な例です。また、長期間放置され景観を著しく損ねている空き家も対象となることがあります。
特定空き家に該当する主な基準
特定空き家に該当するかどうかは、市区町村が現地調査や所有者への聞き取りを行い、法律や条例に基づいて判断します。建物の傾きやひび割れの程度、屋根や塀のぐらつき、敷地内のごみの量、悪臭や害虫の発生状況、近隣からの苦情の有無など、複数の観点から総合的に評価されます。
危険な空き家に対する自治体の対応
危険な空き家が見つかった場合、多くは近隣住民からの通報や相談をきっかけに、市区町村が調査を行います。そのうえで、所有者が判明しているときは、まずは指導や助言という形で自主的な改善を求めます。改善が見られない場合には、空き家対策特別措置法にもとづき、特定空き家への指定や勧告、命令といった段階的な措置に進むことがあります。
行政代執行に進む典型的なケース
所有者が連絡に応じない、費用の負担を理由に是正を行わないなど、勧告や命令に従わない状態が続くと、自治体がやむをえず行政代執行を選択することがあります。特に、強風や地震で倒壊すれば人や車に被害が出るおそれが高いケース、火災発生の危険が大きいケース、通学路に面していて児童の安全に重大な支障があるケースなど、緊急性・危険性が高いと判断された場合に検討されます。
空き家に対する行政代執行の手続きの流れ
所有者への段階的な措置と勧告
空き家に問題があると判断された場合、いきなり行政代執行が行われるのではなく、まずは所有者に対して段階的な働きかけが行われます。市区町村は現地調査を行い、建物の老朽化や倒壊の危険、衛生上の問題などを確認したうえで、所有者や管理者を登記簿などから探し出し、連絡を試みます。
はじめに行われるのは、指導や助言といった比較的やわらかい対応です。文書や電話、訪問などで、修繕や管理の改善、撤去の必要性を説明し、自主的な対応を促します。それでも放置され、周辺への危険や迷惑が続く場合には、「特定空き家」に該当すると判断され、法律に基づいて改善を求める「助言」「指導」「勧告」といった措置が段階的に行われます。
勧告を受けても所有者が適切な措置をとらないと、住宅用地の特例が適用されず固定資産税が高くなることがあります。それでも状況が改善されない場合、次の段階として「命令」が検討され、行政代執行へと近づいていきます。
命令から代執行令書の発布まで
勧告を受けても危険な状態が放置されている場合、市区町村長などの権限により、法令に基づいた「命令」が出されます。命令では、解体や修繕、草木の除去など、所有者が行うべき具体的な内容と期限が示されます。この段階でも、所有者が自ら対応すれば行政代執行には進みません。
命令に従わない、または従う意思があっても期限までに必要な措置がとられない場合、行政は代わりに工事を行う「行政代執行」を検討します。その前提として、所有者に対して再度の通知や話し合いが行われることが多く、できる限り自主的な対応が促されます。
それでも改善が見込めないと判断されたとき、行政は代執行を行うための「代執行令書」を作成し、所有者に交付または送付します。代執行令書には、代執行の理由、実施する内容、予定される時期、概算の費用などが記載されます。令書が届けられたあと、公告などの手続きがとられ、近隣住民への周知も行われたうえで、解体工事などの代執行が実施されます。
略式代執行とは何か
略式代執行とは、通常の手続きよりも簡略な流れで行われる行政代執行の方法です。大きな特徴は、所有者に命令を出す時間的な余裕がないほど危険な状況に限って使われる点にあります。たとえば、倒壊の危険が極めて高い空き家や、屋根や外壁が今にも落下しそうな場合など、放置すれば人身事故につながるおそれがあるときが想定されます。
略式代執行が行われる場合でも、行政が勝手に工事を進めるわけではなく、法令に基づき、必要な記録や手続きがとられます。ただし、通常のように命令を出して一定期間待つことはせず、危険を取り除くために早急に工事が実施されます。その後、かかった費用は通常の代執行と同じように所有者に請求されますので、所有者としては日ごろから空き家の状態を確認し、行政からの連絡に早めに対応することが重要です。
空き家の行政代執行にかかる費用と所有者の責任
空き家に対する行政代執行は、所有者に代わって自治体が解体や修繕などを行うため、多くの場合まとまった費用が発生します。費用は原則として空き家の所有者が負担することになっており、「自治体が代わりにやってくれるから安心」というものではありません。ここでは、費用の内訳と請求方法、支払わない場合の扱いについて整理します。
代執行費用の内訳と請求
行政代執行にかかる費用には、建物の解体・撤去にかかるお金だけでなく、現地調査や足場の設置、廃材の運搬や処分など、さまざまな項目が含まれます。空き家の規模や老朽化の程度、周辺の道路状況などによって金額は大きく変わるため、一律でいくらと決まっているわけではありません。
主な費用の項目
一般的には、解体工事費、重機やトラックなどの機械使用料、安全対策にかかる費用、近隣への事前説明や警備にかかる費用、廃材の処分費、設計や監理にかかる費用などが含まれます。また、自治体が外部の業者に委託する場合は、その委託料も費用として計上されます。
費用の見積もりと所有者への通知
自治体は代執行を行う前に、必要となる費用を見積もったうえで、所有者に対して概要を知らせるのが一般的です。その際、いつまでに自ら対応すればよいのか、代執行に移行した場合にはどの程度の費用がかかると見込まれるのかが説明されます。実際に代執行が行われた後は、確定した金額をもとに所有者へ費用が請求されます。
請求は、納付書の送付など自治体が定めた方法で行われ、多くの場合、支払期限が設けられます。支払いが遅れた場合には、延滞金が加算されることもありますので、通知を放置しないことが大切です。
費用を支払わない場合の措置
所有者が行政代執行にかかった費用を支払わないまま放置すると、自治体は法律に基づき、強制的に回収する手続きをとることがあります。これは税金の滞納処分に近い扱いとなり、長期的に無視してよいものではありません。
督促から滞納処分へ進む流れ
まず、支払期限までに納付がない場合、自治体から督促状が送付されるのが一般的です。それでも支払いが行われない場合、銀行口座や給与、不動産などの財産が差し押さえられることがあります。差し押さえまで進むと、所有者の生活や今後の資産形成に大きな影響が出るおそれがあります。
所有者が負う法的・経済的な責任
行政代執行の費用は、空き家の所有者が負うべき法的な義務とされています。相続などで知らないうちに空き家を引き継いでいた場合でも、登記上の名義人であれば請求の対象となることがあります。費用の負担や差し押さえを避けるためには、早い段階で自治体の担当窓口や専門家に相談し、売却や解体、自主的な管理などの対策を検討することが重要です。
空き家の行政代執行を避けるための対策
空き家への行政代執行は、所有者が管理をせず、危険な状態を放置した結果として行われます。空家対策特別措置法により、倒壊や火災の危険がある建物は「特定空き家」に指定される可能性があるため、早めの対策が大切です。日頃から建物と敷地を点検し、行政からの文書や通知には必ず目を通すようにしましょう。
所有者ができる事前準備と相談先
まずは、空き家を放置せず、定期的な見回りと簡単な手入れを行うことが基本です。屋根や外壁のはがれ、塀の傾き、雑草の繁茂、窓ガラスの破損などは、近隣にとって危険や迷惑となりやすい部分です。気付いた時点で、できる範囲の補修や草刈りを行い、老朽化を放置しないようにしましょう。
所有者が遠方に住んでいる場合や高齢で管理が難しい場合は、地元の不動産会社や空き家管理サービスに依頼する方法もあります。また、解体や売却を検討している場合は、複数の工務店や不動産業者から見積もりを取り、費用の目安を把握しておくと、急な対応が必要になった時にも落ち着いて判断しやすくなります。
空き家の管理や活用について悩んだときは、市区町村の空家対策窓口や建築指導課、固定資産税を担当する部署などに相談できます。自治体によっては、無料相談会や専門家への相談制度、解体費用やリフォーム費用の一部を助成する制度を設けていることもありますので、自分の住む地域の制度を確認しておくと安心です。
相続したばかりの空き家については、登記名義を整理し、誰が管理責任を負うのかを家族の中で明確にしておくことも重要です。名義があいまいなまま放置すると、行政からの通知が届かず、気付いた時には行政代執行の直前だったという事態にもつながりかねません。
早い段階で活用や処分も検討する
今後住む予定がない空き家であれば、早い段階で賃貸、売却、解体などの選択肢を検討することも、行政代執行を避ける有効な方法です。時間が経つほど建物は傷み、解体費用もかさみやすくなります。近隣とのトラブルが起きてから対応するよりも、建物の状態が良いうちに決断したほうが、結果的に費用や負担を抑えられる場合が多いです。
行政との連携で問題を解決する
行政から指導や助言の文書が届いた場合、そのまま放置することが行政代執行への近道になってしまいます。まずは内容をよく読み、期限内に連絡を入れることが大切です。事情を説明し、どこまでなら対応できるのか、どの程度の期間が必要なのかを担当部署と相談しましょう。
行政は、所有者が誠実に対応しようとしているかどうかを重視します。すぐには補修や解体が難しい場合でも、見積もりを依頼していることや、家族と協議していることを伝えることで、猶予期間の設定など柔軟な対応をしてもらえることがあります。
また、近隣から苦情が出ている場合は、行政を通じて状況を共有し、所有者と周辺住民の両者が納得できる形を探ることが重要です。防犯や防災の観点からも、フェンスの設置や施錠の強化、雑草の除去など、今すぐできる対策を示すことで、行政代執行に踏み切られる前に信頼関係を築くことにつながります。
このように、所有者が自ら管理と対応の意思を示し、行政と連絡を取り合いながら一歩ずつ改善を進めていけば、行政代執行という最終的な措置を避けられる可能性が高まります。
まとめ
空き家の行政代執行は、所有者の管理不足により周囲へ重大な危険や迷惑が及ぶ場合に行われる最終手段です。指導や勧告、命令といった段階を経ても改善されないと、自治体が代わって解体や修繕を行い、その費用は原則として所有者に請求されます。代執行を避けるには、早期の管理・相談と行政との連携が重要です。



