相続放棄が家庭裁判所で認められても、空き家の問題がすぐに解決するわけではありません。相続放棄者は、初めから相続人ではなかったとみなされますが、民法により次に管理する人が現れるまで、最低限の管理義務が残ることがあります。この記事では、相続放棄後の空き家の管理義務の範囲と期間、義務を怠った場合の損害賠償リスクを解説します。また、相続人全員が放棄した場合の相続財産管理人選任と国庫帰属までの流れ、売却や専門家への相談といった注意点をご紹介します。
相続放棄した空き家はどうなるのか
相続放棄が認められた後の空き家の状態
相続放棄が家庭裁判所で正式に認められると、相続人はその相続に関して、初めから相続人ではなかったものとみなされます。これは、空き家を含む被相続人の財産に対する一切の権利を失うことを意味します。
つまり、相続放棄をした人は、その空き家の所有者ではなくなり、原則として空き家に対する権利や義務はなくなります。ただし、次に相続する人が管理を始めることができるようになるまで、一時的に管理を継続する義務が残る場合があります。この管理義務については、次の章で詳しく解説します。
相続人がいなくなった空き家の一般的な行方
相続人全員が相続放棄をした場合、その空き家は所有者のいない状態になります。このような場合、利害関係者(例えば、被相続人にお金を貸していた人など)や検察官は、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申し立てることができます。
相続財産管理人が選任されると、その管理人が空き家を含む被相続人の財産を管理し、債務の弁済などを行います。最終的に、債務を弁済してもなお財産が残った場合は、その残余財産は国庫に帰属することになります。
相続放棄しても空き家の管理義務は発生するのか
相続放棄が家庭裁判所で受理されたとしても、すぐに空き家の管理義務がなくなるわけではありません。民法第940条には、相続放棄をした人でも、次の相続人や相続財産管理人が財産を管理できるようになるまで、その財産を保存する義務があると定められています。
これは、相続財産が放置されて価値が損なわれたり、第三者に迷惑をかけたりすることを防ぐための規定です。そのため、相続放棄をしたからといって、すぐに空き家から手を離せるわけではないことを理解しておく必要があります。
相続放棄後の管理義務はいつまで続くのか
相続放棄後の空き家の管理義務は、原則として、次にその財産を管理すべき人が現れるまで続きます。
- 次の順位の相続人が相続する場合: 次の順位の相続人が相続の承認をしたときまでです。例えば、子が相続放棄をした場合、親や兄弟姉妹が次の相続人となります。
- 相続人全員が相続放棄をした場合: 相続人全員が相続放棄をして、相続財産管理人が選任され、その管理が始まるまでです。
この期間はケースによって異なり、数ヶ月から数年かかることもあります。特に相続人全員が相続放棄し、相続財産管理人の選任が必要な場合は、手続きに時間がかかる傾向があります。
管理義務を負うのは誰か
相続放棄後の空き家の管理義務を負うのは、原則として、その空き家について相続放棄をした人です。ただし、その義務の範囲は「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」管理するというものであり、一般的に求められる「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」よりも軽減されています。
これは、相続放棄をした人が、もはやその財産を自分のものとして積極的に管理する義務までは負わない、という考えに基づいています。しかし、最低限、空き家が荒れて近隣に迷惑をかけたり、損害を与えたりしないようにする義務は残ります。
管理義務を怠った場合のリスクと責任
相続放棄後も空き家の管理義務を怠り、適切な管理を行わなかった場合には、いくつかのリスクと責任が発生する可能性があります。
- 損害賠償責任: 空き家の管理を怠った結果、建物が倒壊したり、屋根や外壁の一部が飛散して近隣の家屋や通行人に損害を与えたりした場合、損害賠償責任を負う可能性があります。
- 行政からの指導・命令: 空き家が著しく老朽化し、周囲に危険を及ぼす状態になった場合、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、市町村から管理状況の改善を求める指導や命令が出されることがあります。これに従わない場合、行政代執行が行われ、その費用を請求される可能性もあります。
- 火災などの事故: 適切に管理されていない空き家は、不法侵入による放火や、漏電などによる火災のリスクが高まります。万が一、火災が発生し、近隣に延焼した場合、重大な責任を問われる可能性があります。
これらのリスクを避けるためにも、相続放棄後であっても、次に管理する人が現れるまでは、最低限の空き家管理は続けることが重要です。
相続放棄された空き家が最終的にどうなるのか
相続財産管理人選任の申し立てとは
相続放棄が認められ、すべての相続人が相続放棄をした場合、その空き家を含む相続財産は一時的に所有者のいない状態になります。このような状態の相続財産を管理し、清算するために、家庭裁判所へ「相続財産管理人」の選任を申し立てることができます。
相続財産管理人とは、相続人の代わりに相続財産を管理し、債権者への弁済や最終的な国庫への帰属手続きなどを行う専門家(主に弁護士など)のことです。この申し立ては、相続債権者や特定遺贈を受けた人などの利害関係人、または検察官が行うことができます。
国庫帰属までの流れと期間
相続財産管理人が選任された後、空き家が最終的に国庫に帰属するまでには、いくつかの段階と長い期間を要します。一般的な流れは以下の通りです。
- 家庭裁判所による相続財産管理人の選任
- 相続財産の調査と目録作成
- 相続債権者や受遺者に対する請求申出の公告(2ヶ月以上)
- 相続人捜索の公告(6ヶ月以上)
- 特別縁故者(亡くなった方と生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人など)への財産分与の申し立て期間
- 特別縁故者がいない場合、残った財産が国庫に帰属
これらの手続きには、それぞれ法律で定められた期間があり、全体で数年かかることも珍しくありません。この間、空き家は相続財産管理人によって管理されることになります。
空き家が国庫に帰属するまでの費用負担
相続財産管理人を選任する際には、いくつかの費用が発生します。主な費用は以下の通りです。
- 申立費用: 収入印紙代や郵便切手代など、数千円程度かかります。
- 予納金: 最も大きな費用となるのが、相続財産管理人の報酬や実費に充てるための「予納金」です。これは家庭裁判所に納めるもので、財産の状況や手続きの複雑さによって異なりますが、数十万円から100万円程度が目安となることが多いです。
これらの費用は原則として相続財産の中から支払われます。しかし、相続財産が不足している場合や、空き家のように売却が困難な財産しかない場合、予納金は申し立てた人が一時的に負担することになります。もし空き家が最終的に売却できなかったり、維持管理費用がかさんだりして、予納金を回収できない事態も考えられますので、申し立てを検討する際には慎重な判断が必要です。
相続放棄と空き家に関する注意点
相続放棄は、負の遺産を引き継がなくて済むというメリットがある一方で、一度手続きを完了すると原則として撤回できない重要な決断です。特に空き家が絡む場合、その後の管理や処分について慎重に検討する必要があります。
相続放棄の前に検討すべきこと
相続放棄を検討する前に、本当にそれが最善の選択なのか、他に解決策はないのかを十分に考えることが大切です。
まず、相続放棄は原則として撤回できません。そのため、安易な判断は避けるべきです。相続財産の中に空き家以外のプラスの財産(預貯金や有価証券など)がある場合、それらを活用して空き家の負債を清算できないか検討することも一つの方法です。
また、「限定承認」という選択肢もあります。これは、相続したプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ制度です。空き家を売却して得たお金で負債を清算し、残った財産があれば受け取ることができます。ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑です。
空き家が売却可能な状態であれば、相続放棄をせずに売却し、その売却益で固定資産税などの維持費やその他の負債を清算することも考えられます。売却によって負債を完済できれば、相続放棄をする必要がなくなる可能性もあります。
空き家特例の活用を検討する
相続した空き家を売却する場合には、「空き家の発生を抑制するための特例措置」(通称:空き家特例)の適用を検討することも重要です。
この特例は、被相続人が住んでいた家屋とその敷地を相続した方が、一定の要件を満たして売却した場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。これにより、売却にかかる税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
特例の適用には、被相続人が亡くなる直前までその家に住んでいたこと、売却価格が1億円以下であること、売却前に耐震基準を満たすリフォームを行うか、取り壊して更地で売却することなど、いくつかの要件があります。これらの要件を確認し、適用可能であれば相続放棄以外の解決策として有効な場合があります。
専門家への相談の重要性
相続放棄や空き家の問題は、法律や税金が複雑に絡み合うため、個人で解決しようとすると困難なケースが少なくありません。そのため、専門家への相談を強くお勧めします。
弁護士は、相続放棄の手続きや他の相続人との交渉、相続財産管理人選任の申し立てなど、法律全般に関する相談や手続きの代行が可能です。司法書士は、相続放棄の手続きや不動産の登記に関する専門家です。また、税理士は、相続税や空き家特例の適用、売却益にかかる税金など、税務に関するアドバイスや申告のサポートをしてくれます。
早い段階で専門家に相談することで、ご自身の状況に合った最適な選択肢を見つけ出し、不要なトラブルを避け、手続きを円滑に進めることができます。複数の専門家が連携してサポートしてくれるケースもありますので、まずは信頼できる専門家にご相談ください。
まとめ
相続放棄が認められても、空き家は次に管理する人(次順位の相続人や相続財産管理人)が現れるまで、民法上の管理義務が残ります。この義務を怠ると、損害賠償責任や行政指導のリスクが生じます。
全員が放棄した場合、財産は最終的に国庫に帰属しますが、それには相続財産管理人の選任(予納金負担の可能性あり)など、時間と費用がかかります。放棄前に限定承認や売却、専門家への相談を検討しましょう。



